土間の家

ひょんなことから研究室の後輩とクロアチア人のマリオ、スペイン人のディエゴと4人で篠原一男の「土間の家」にお邪魔する機会を得た。関越に乗って山奥に上り、予定の11時を少し過ぎた時刻に到着。
アプローチは傾斜の上のほうからで、まさに作品集に出ている夜景の外観のアングル。今は当時のお施主さんの娘さんご一家が住んでいるということで、雨戸は開いておりアプローチから土間床が見られる。斜面を下り家に近づく、敷居をまたぐと、そこには土間が広がっている。竣工当時はまさに本物の土間だったらしいが、メンテナンスの過程で土間の職人さんが減り、コストが上がっているということもあって、今は珪藻土を混ぜた土で固めているためにモルタルに近い白っぽい色みで、普通の土間よりも固い。本物の土間の管理は実に大変で、毎朝水を撒いて程々に水分を与えることが必要だとか。しかしこの住宅が建っているエリアは断水がしばしばあるようで、やはり管理するのが大変らしい。現在はご家族3人がお住まいで、発表されている写真のようにモノの量からか整頓された状態ではないものの、建物自体は未だにきれい。40数年前の建物とは思えない状態の良さ。台所のあたりは使用上一部すのこが敷かれていたり、トイレを洋式に変更している。もちろん当時にはなかった、洗濯機や冷蔵庫といった家電はぎりぎりのレイアウトがなされていて、とかく建物に手をつけないようにしているのが伺える。お風呂も浴槽は代えているものの、浴室の木の壁もとてもいい状態。
あと襖に茶室で使われる枠なしのものが使われて、柱を欠いて直に納まるようになっていたり、ディティールに無駄な線がでないようにデザインされている。これは建物がより抽象的に見えてくるようにしたいためで、このようなことは随所に見られる。よって土間、室内の縁側、和室の平面的な構成が明快な形で現れてくる。また和室と土間を隔てる障子と襖の組合せの壁も明快なかたちで現れてきている。
第一の様式の到達点と言える「白の家」やその同時期の「地の家」がもっている厳しいとも言える抽象度の高い、スケール、プロポーションの世界とは違う。ただそれへの軌跡が垣間見える作品だと思う。