できそこないの男たち

トマス・モアの「ユートピア」を読んでいる途中なのですが、ちょこっと別の本を読み始めたら面白かったので。

「できそこないの男たち」福岡伸一光文社新書

著者の前著「生物と非生物のあいだ」が面白かった記憶があるので、BOOK OFFで4ユーロで見つけたので購入。
分子生物学、遺伝子学系の本なのですが、備忘録として以下にいくつかの内容を。


染色体タイプとして、女性は44+XX、男性は44+XY。卵子および精子ではそれらの染色体が2つに分割されるので、卵子は常に22+X染色体をもつ一方、精子は22+Xと22+Y染色体の2タイプになる。精子卵子が組み合わされるので、結果はおおよそ1:1の割合で男子と女子が発生する。

つまりY染色体に男性になる鍵(DNA鎖の一部)が潜んでいるわけだが、そこの遺伝情報に何らかの異常をきたした時に、44+XY female(男性型女性)となり、また44+XXにそのY染色体の鍵が紛れ込むと44+XX male(女性型男性)が生まれる。これらは両性具有の一つの形式。

その鍵がSRY遺伝子と呼ばれているもので、受精後6週間目までは両性とも同様のつくりなのだが、7週目からこのSRY遺伝子が(いわゆる)命令を出して、44+XYの方は男性的な特徴を作り出す。

人体はトポロジー的にはドーナツ状で、消化器官は外部であり、その他の穴も耳も汗腺も外部である。受精卵が分裂を繰り返した際に、ある時点でU字型にくぼみができ始め、やがて貫通しドーナツ状に。それが消化器官の原型。その後、6週目の胎児にはミュラー管とウォルフ管という2つの行き止まりの穴が形成されていて、Y染色体が無い場合はそれらがそのまま女性の膣と尿道になる。Y染色体が7週目に作用し始めると、ミュラー管が退化して腎臓と繋がっているウォルフ管が精巣に接続する。というと、生物学的にはどちらかと言えば女性の方が基本仕様である。ちなみに男性の睾丸裏の筋はそのミュラー管(女性の場合、膣)が縫い合わされた痕跡である。(!)
旧約聖書のアダムとイブの話は逆転して、基本がイブ(女性)でアダムはそれからの派生(肋骨?)ということ。

単為生殖(アリマキという虫が例になっている)の場合はメスで、その子供も当然メスである。出産時には既に小さいながらアリマキの形をしており、さらにその中には子供のアリマキが存在するマトリョーシカのようなことになっている。ただし、冬になると越冬のために、オスをつくる。この場合Y染色体は存在しないのだが、XX型(メス)ではなくてX0型(オス)とする。Xが2本あったのが1本になっているので、情報も半減。つまりメスの出来損ないとしてのオスが誕生。メスとオスが受精し、卵の状態で越冬する。その時に初めて遺伝子情報が同種間で交換される。

生物学的な統計で男性よりも女性の方が強いのは明らか。平均寿命は長く、疾患の罹患率は男性の方が高い。(環境因子に関わらず)

Y染色体の内容で人類のルーツが分かる。現世人類のルーツは10数万年前のアフリカ。そこから分岐して地球上に分布したのだけれど、日本人のY染色体を解析すると、C3型(旧石器人)、D2型(縄文人アイヌ、東北、日本海、沖縄に多く見られる)、O2b型(弥生人/渡来系弥生人)、O3b(弥生人/東アジアにも多く見られる)といったタイプ。つまり遺伝子のタイプで見れば、日本が単民族国家というのは嘘っぱちで、むしろ"人種"の坩堝といえるし、多くの東アジアの国々と多くの部分で共通している。

現在の中央アジアから東アジアにかけてのY染色体を調査すると、その8%(1600万人)が同一にして単一の男系祖先を持ちうる。その発生は約1000年前であり、時代的な状況を考えるとそのルーツはチンギス・ハーンとの関連が指摘できる。
→つまり日本の皇族の男系主義は生物学で議論すればY染色体による正統性となるが、それを系統をもつ男子はかなり多くの人々がその正統性を継承していることになる。



以上は内容をかなり大雑把にまとめたものですが、自分で頭を働かせて考えて面白いと言うよりは、事実として面白かったのでこういう書き方にしました。