ハウス&アトリエ・ワン

ラウジュアリーホテルを後にして、天気のいい麻布、六本木界隈を散歩した後に向かった先がアトワン設計の彼らの自邸兼事務所であるハウス&アトリエ・ワン。論文の発表会後に塚本先生と話をしようとした時に、彼から発せられた「何か企画しろよ」との言葉は、その後もことあるごとに繰り返されやっと実現に至りました、最高の舞台で。以前から断面パースなどはみていてそのものの存在は知っていて、そして図面から見るにどこが面白いのかをまったく想像できずにいました。それは幸いにも嬉しい誤算となって、僕の建築経験の中でももっとも素晴らしいものの1つとなっています。
山手線の内側に建てられたその建物は、少しだけ高台に位置していて江戸時代には小役人などが集まって住んでいたような場所。大きな幹線道路といえば外苑東通りで、そこから一歩脇に逸れてしまえば、敷地が不整形に細分化された住宅地がダラダラと広がるようなところ。少し大きめの敷地はだいたい寺社と墓場になっているような街。近い風景を挙げるならば新高円寺のあたりかな。そんな場所にありがちな旗竿状の敷地に居場所を見つけて、するりと入り込んだ縦長ので茶色の建物は、施された外壁があまりにもファジーでもはや新築というか、建物らしい振舞をしていない。ホントになんかしらの動物がたまたま住み着いちゃったような、そんな外観。内部の構成はアプローチ側にある小さい床と、その奥の大きい床のでスキップフロアになっていて、階数でいうと地階+地上3層になるのかな。構造が鉄骨造で、それら床をそれぞれ勾配が変化する鉄骨の白い階段で繋がれている。そのうちの1つ「欽ちゃん階段」と名付けられた階段は、斜めに渡されたもので一瞬の間自らの身体が揺らぐ。白く塗り込められた柱梁はむき出しになっていて、その間を充填するように仕上げが施されている。これまた「欽ちゃん階段」の脇の柱は斜めになっていて、ちょっと身を委ねるのにちょうどいい角度になっている。
なかなか図面では伝わらないだろうこの建物の良さは、言葉にするのは当然もっと難しい。でも建築的な解説をつけるとすれば、きっと建物が建つ都市的状況の中に身を潜めて、そして旗竿地の竿を介した電線が飛び回る遠景だったり、隣家の瓦屋根や壁の色を楽しんだり、風呂の窓と目が合ってしまうような、そんないろんな都市に対する距離感を身体的なスケールまで落とし込んで、それが僕らの日常として時間が経っていくような、そんな建物。建物はある意味シンプルに作られていて、ある階では備え付けの照明がなかったりする、そんな些細な不足は、1つ1つの照明器具(ベイルートで購入されたらしい)や巨大なハンモックなど、愛着のあるモノによって互いに補いあっている。なんだかものの関係としてもすごく理想的に関係が作られていて、それが僕らの体ともうまく結びついている、そんな感じでしょうか。最上階の寝室などはバシュラールを思い出したりもしたなあ。