ジャーナリズムファシズム

近頃、何かと世間をお騒がせしている建築業界ですが、僕も関わっている人間の一人として日々の報道には注目しています。少し前まではリフォーム詐欺が一番の話題でしたが、目下のところは姉歯構造事務所問題。それにまつわる報道のあり方について。
まずはあの事務所がもっともやってはいけないことをやったのは事実。そして彼は明らかに一緒に仕事をしてきた連中に責任を連帯してもらって、自分は助からないにしろ道連れにしようとしてますね。そしてジャーナリストたちはまんまとそれに乗っかって、視聴者の矛先をマンションの販売店に向けてしまった。
彼らがどういう契約形態で仕事を進めていたのかはわからないけれども、建築設計に携わっている立場からみると、まず設計側の総責任者は建築認可申請を出した一級建築士であって、姉歯さんはあくまでもその下請けに過ぎない。本来なら姉歯さんがつくった構造計算書をチェックしなきゃならんのは、その建築士です。今回の件では、下河辺建築設計事務所、森田設計事務所スペースワン建築研究所SSA建築都市研究所のはずなんですがこれらの設計事務所は前には出てきてませんね。そこが1つ。
てことで、メディアはどのような形で建築の責任のとられ方がされているのかはまったく説明しません。というかだいたいからして、キャスター(僕がみたのは、古館一郎)と解説員(朝日新聞の)が無知をさらけ出して、必死になって目の前にいるデベロッパーを糾弾していたけれど、もうとにかくなりふり構わずジャーナリストは正義の名の下に加害者を糾弾する、という構図がエンターテイメント化しているように感じて、胸くそが悪かったです。もちろん視聴者はジャーナリスト側につくわけですから、一方的な展開にしかならない。そりゃそうだ、業者は悪いから謝るしかない。そこで古館氏が一言「会社の財務状況の開示を...」って、法的根拠のないメチャクチャな要求を公共の電波の上でする始末。その業者の責任の取り方もこれから丁寧に議論される議題であって、いきなり古館氏がそんな要求を公衆の面前でさせるだなんて、暴力としか言いようがない。そして業者側も嫌とは言いようがない。
ちなみに業者やらメディアも含めて、国に保障を、なんてことを言っていますが、そんなことを国にやらせる根拠もなくて、それは民間同士のやりとりだから。こういう時に憲法生存権がどうこう、などという議論がされますけれど、だったら耐震強度の足りない建物全てに国が保障してやらなきゃならなくなる。現に僕が生活している大学の建物だって、かなりヤバいと言われ続けてやっと工事をしているところ。新築のマンションだからって言うのは理由にならなくて、それならば日本全国の全ての建物の耐震補強を国が負担せねばならないし、現実的には無理に決まっている。ここでも根拠のない要求が大手を振って横行してしまうジャーナリズムの恐ろしさを感じます。
なんにしろ、あらゆる局面で対立のない状況がつくられているように思います。明らかな力の差を見せつけられることがよくあります。ジャーナリズムが世論をつくり、世論がジャーナリズムをヒートアップさせるというポジティブフィードバックを繰り返す限り、この大きな流れは止まらなくて、それに対立しようとすればつぶされる社会になってしまっているのかな。個人がモノを言えるインターネット社会って、もっとフラットなことが想定されているはずなのに。